構と裏受


私が修行している某拳法に限らず打撃系格闘技の流派にはどれにでも同じ概念があると思うが,裏を受けるか表を受けるかと言うことがある.表とは腹側,裏とは背側で,相手の突きを相手の背側(腕の外側)で受ければ裏で受けると言うことになる.広い合気からの受け1−2←裏を受ける
 防御を考えると,間違いなく裏を受けた方が良い.裏を受けると言うことは相手の背側に正対することになり,相手からは攻撃がしにくくなる.足刀蹴りか後ろ廻し蹴りは警戒するべきであるが,少なくとも表を受けたときに比べて,相手は突きを出しにくい.逆に表を受けてしまうと,こちらが相手に対して背側,相手の方は前面をこちらに向けることになるので,相手が攻撃しやすくなる.
…と言うわけでなるべく裏を受けたい訳であるが,これは実は最初の構えによって大きく左右されると言うことを改めて実感したので此処にまとめておこうと思う.よく考えてみれば当たり前のことなのだが,意外といい加減になっていることが多いのではないかな.

例えば,私の修行する拳法の基本の構えである中段構の場合を以下に示す.どちらが隙無く守れているように見えるだろうか.
狭中段構広中段構
↑狭い中段構      ↑広い中段構
格闘漫画に良くありそうなのは狭い構えの方だろうか.また,ボクシングのガードは両手を挙げて顔面をグローブで守るような感じになるので狭い構えに近いだろう.広い構えは一見空いている部分が多くて隙があるように見えるかも知れない.

しかし,実を言えば狭い中段構えは裏で受けにくい.拳が正中線に近い処にあるのでつい内(中央)から外側へのストロークで受けてしまいがちになる.また,表で受ける場合,後ろの手(逆手)で小さく受けるのが不安になるためか,前の手(順手)で受けてしまいがちになるように思う.
狭い中段構からの打上受 狭い中段からの内受(表)
↑打上受(表)             ↑内受(表)
特に内受(表)の場合,相手の逆突に対して随分無防備になってしまうので,相手が連攻で来た場合,綺麗に入ってしまう可能性が高くなる.
狭い中段からの内受反撃←内受の後,上段に反撃を喰らったところ.

これに対して広く構えた場合は,受手は外側から正中線へ向かってストロークしやすい.従って,必然的に裏を受ける形になりやすい.
広い中段構からの内受(裏)広い中段構からの内受(裏)2
↑逆手の内受(裏)        ↑順手の内受(裏)
この場合,受手で相手の腕を少し抑えるようにして崩せば,反撃もし易い.

合気構えの場合も同様であるが,構えがより開き気味になるので上記の事情が顕著に出ると思う.裏を受けようと思えば構えは広い方が良い.そもそも教範にある合気構えは広い合気構に近かったはずだ.

ところで,前から合気構えの逆手だけ開き気味になりつつ手刀は内側に寄るような形になっているのが疑問だった.八相構えは両手共に手刀が内側に傾いているのに,合気構えは逆手のみ傾いているのは何故か?(八相構えは勿論上段を警戒し,中段を誘う構えではあるが,実は相手を近間に入らせることを想定していないように思う.すなわち,上段の突きの攻防を考慮せず,待蹴りを併用する守りではないだろうか.従って,手刀を上に持ってくると言っても,合気構えほど高くないのだ-この辺りはまた次の機会に考察してみる).

合気構えで逆手が開き気味で手刀を正中線に寄せているのは,逆手で裏に受ける場合,受ける位置が顔に近くなるため素早く受けられるようにしているのではないかと考えている.と同時に肘のほうはやや外側に置くことで外側から裏を受けることを担保しているのではないだろうか.前手の方は受けに余裕があるので,寄せる必要が無いと考えると,なんとなく納得がいくが,どうだろうか.
してみるとやはりこの合気構え,上段防御に徹した構えであり,空手さんの前羽の構えと思想に共通性があるような気がする.これを無刀捕りの構えという意見を聞くが,出所はどこなのだろうか?それはあまり合理的な説明でないように思う.

狭合気構広合気構広い合気構え↑狭い合気構        ↑広い合気構      ↑広い合気構で正対

繰り返しになるが,この場合も広く構えた方が裏を受けやすい.さらに上に構えているので上から下に打ち落として相手の上段に隙を誘いやすい.あるいは,逆手内受を後ろ体重で行い,中段の隙を誘って中段順蹴りというのも良いだろう.ちょうど下受順蹴りの内受版の体捌きであるが,このパターンは意外と練習していないのではないかと思う.
広い合気からの受け1
↑合気構から逆手内受の裏

kPsxH広い合気からの受け2−2
↑合気構から順手内受の裏,その後相手の拳を下に落として崩し,上段逆突による反撃

合気構えを使うと我が拳法らしい回転系の捌きにより裏を受ける内受がとてもやりやすいように思う.外から内に向かって裏を受けるというのは私の修行する拳法の一つの特徴では無いかという気がするのだ.これは明らかに空手系の動きと違うように思う.ボクシングは受けではなくブロックによるガードで,最初から正中線を守る.これも思想が違っている.攻撃の軌道はボクシングと我が拳法はよく似ているのだが,ガードに対する考え方は大きく違うようだ.「外から内に向かって裏を受ける」動きに源流の一つである,中国・少林拳のにおいを感じる.

snkudoh について

道楽洋学者で某私立大学教授.💡研究分野は,脳・AIと,心に関する人工物全般. 🥋武道は少林寺拳法正拳士四段,無双直伝英信流居合兵法 全日本居合道連盟居合道四段で共に現役. 🎼芸術全般に興味,音楽ー特にオペラ,美術ー高校時代は画家志望.文学,刀剣. ⛩思想は禅,神道,武士道. *ヘッダー画像はサンスーシー宮殿の絵画館.
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