体格差があるとき


最近,私より体格がずっと立派なカークさんとよく乱捕りしている.カークさんは級拳士だが,研究熱心でめきめき上達している.兎に角,相手の攻撃を受けたらすぐに返す,と言う癖が付いているのはとても良いことだ.
しかし,これだけ体格差がある(図1)と,私の攻撃が届く前に相手の攻撃が届いてしまうので体の小さい私は相当に不利である.

1構え

図1 私(右)の構えは御師匠様お勧めの待機構え.上段も守れて自由乱捕りに大変使いやすい構えである.しかし,これだけ身長差があるとリーチの差も25 cm以上になる.

相打ち

図2 私の蹴りの間合い=カークさんの突きの間合い.このときは私の逆蹴りとカークさんの中段順突きで,丁度相打ちになってしまった.

1順蹴り

図3 相手のやや外側に出て前三枚への中段順蹴り.蹴込みだが,相手の体の反動を利用して後ろへ下がれるように体重を配分している.完全に蹴って押し込むより威力は減ずる.

2離脱

図4 すぐに反撃が来るので上受けをしながら離脱する.上受けのみでその場にとどまるのは,十分な体勢の相手のパワーが大きいときは危険である.受けがはじき飛ばされることもある.出来るだけ素早く間合いを切ること.

1-2誘い

図5 誘い.と言うより一種のフェイク.人の習性として,視線上を自分に向かってくる動きには思わず注視してしまうので,是を利用して相手の前手を出させる契機とする.

2掻き落とし

図6 我の前手(この場合左手)で前に出てきた相手の前手を裏から引っかけて(外側から)掻き落とし,体勢を崩しながら逆脚を前に振り込んで差し替える.写真で指先が下を向いているのはカークさんの左手.

3崩し

図7 大きな相手を崩して空いた上段に前進の勢いをそのまま載せてKOする.是は空乱なので,わざと軌道を上に外しているが,本来腰をもっと入れて低い軌道で突くのだ.

何しろ,私の蹴りの間合いとカークさんの突きの間合いが一緒で,突きのリーチの差は25,6 cmはあるのだ.不用意に入ると,同時に返されて相打ちを喰らってしまう(図2).

そこで,相手が自分より大きい場合の戦い方を考えてみようと思う.
まず,間合いを考えると圧倒的に不利なので,素早く自分の攻撃間合いで攻撃し,攻撃が終わったらすぐに最速で離脱という,hit and awayを考える.ボクシングっぽく,呼吸をずらして相手が虚になった瞬間に攻撃間合いに入り,素早く離脱するのだが,まず完全に間合いを切れないのでしっかり受けをしながら離脱することが肝心である.これは言うまでもないことで,我が拳法の基本中の基本だと思う.攻撃はいろいろ考えられるが,まず相手のリーチの方が長いのだから,できるだけ遠くから攻撃するためにも蹴りからブレイクするのが順当だろう.このとき,開構えか対構えかの布陣が重要で,それによって適した攻撃が決まると思う.

勿論逆蹴の方が間合いは遠くから蹴れるのだが,例えば写真の例で言うと,このときは開構だったので,逆蹴りで前へ出ると相手に表(体の前側)を曝すことになる.すると十字受蹴りの要領で受けられて同時に前足で順蹴りを喰らわされる可能性が高い.それで,私はこういうときは若干外側に振りながら相手の前三枚を狙って順蹴りでブレイクする(図3).

このときは上手く極まったが,安心してはいけない.順蹴りでは威力不足でKO出来ないかも知れない.相手が耐えたとすると,私の蹴り間合いは相手の突き間合いなので,いくらでも反撃できるのだ.故に上段突きを警戒して上受けしながら最速で離脱する(図4).

当然,実際乱捕りの中ではそこまで分析的にゆっくり考えているわけではない.逆蹴りで行こうとすると「なんとなく”嫌な感じ”」がするので,自然に順蹴りなのである.今更当たり前のことだと思うが,こういう勘みたいな感覚が大切だと思う.これを養うには数を掛けるしかないだろう.

さて,hit and awayも単攻撃では中途半端で決定打にはならない.かといって,このリーチの差では,そのままただ踏みとどまって連攻撃を仕掛けるのは大いに不利である.
そこで,相手の体勢を崩すことを考える.そもそも受けで崩すというのは,「受即攻」を標榜する拳法では取り立てて特別なことではなく,当然いつでも意識しておくべき事と思う.とりわけ,相手の体格が自分より立派である場合は特に「受けや誘いによる崩し」を意識すべきだと思うのだ.

例えば,図5以下の一連の図のように誘って崩すのはどうだろうか.まず最初にわざと大きく前手を上へ振りだして相手の注意を引きつけ(図5),受けを誘う.相手が上受けしようと前手を出してきたら振りだした手の軌道を変えて相手の前手を掻き落とすように引っかけて下に落とし(図6),同時に素早く差し替えて上段順突きを仕掛ける(図7).相手の体重は前に載っているので後ろにスウェーするのは間に合わない.この差し替え突進しての順突きを避けようとすれば相手は横に体勢を崩さざるを得ない.

このとき,相手の裏から掻き落とすことと,差し替えた脚の位置が重要である.差し替え脚を相手の中心ではなくやや外側に振って(裏に出られればベストか),相手の裏から相手の正中線に向かって掻き落とせば,丁度相手が崩れやすいところ(相手の両足を結んだ線を底辺とする三角形の頂点)に相手の前手を誘導できる.このように相手の体勢を崩すことが出来れば身長の差もリーチの差も解消され,むしろ体勢が十分なこちらが有利となる.逆に,もし相手の正中線上に差し替えた脚を下ろして相手の表から掻き落とすと,相手の上段逆突きを誘ってしまい,まずカウンター相打ちになるのでとても危険である.これも,「嫌な感じ」で瞬時に切り替えるのである.このように,相手を受けと攻撃で崩せば,体が大きい相手にも余裕を持って対応できる.正に我が拳法は「受即攻」が要なのだと思う.

ちなみに,写真は全て実際の自由乱捕り(空乱)の中での動きであるから,多少形が崩れてもいる.空乱なので図7では軌道を上にずらしてかつ掌底で止めているが,実際は勿論風鈴(耳の前)か三日月(顎)の急所に当て身を入れる.

本日の教訓:
自分より立派な体格の相手との攻防では,
1.ボクシング流のhit and awayで,出来る限り相手の間合いに入らないように!
または
2.誘いや受けを上手く使って相手を崩し,大きな相手を小さくして自分の間合いに持ってくる.
のいずれかを組み合わせてみたらどうだろうか.

snkudoh について

道楽洋学者で某私立大学教授.💡研究分野は,脳・AIと,心に関する人工物全般. 🥋武道は少林寺拳法正拳士四段,無双直伝英信流居合兵法 全日本居合道連盟居合道四段で共に現役. 🎼芸術全般に興味,音楽ー特にオペラ,美術ー高校時代は画家志望.文学,刀剣. ⛩思想は禅,神道,武士道. *ヘッダー画像はサンスーシー宮殿の絵画館.
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