構え


息子,卓哉の乱捕の動きがどうもこの頃良くない.本人も「何か堅くなる」という.良く一緒に乱捕の修行をしているHさんが,未だ級拳士なのだが腕を上げてきて,この頃なかなか上手いカウンターをとる.彼は体格もがっしりしているので,技が身についてきたら手強くなるだろうと未来の好敵手として楽しみにしているのだが,卓哉が言うにはそのHさんに結構カウンターをとられるのだという.
卓哉の空乱を見ていて,御師匠様が「この頃,卓哉はちょっと半身になりすぎや.形がくずれてるぞ」と仰る.正に,この半身,いつもよりほんの数度のずれが卓哉の不調の全ての根源になっていたのである...

正課の練習後にHさんと卓哉の乱捕を見物する.確かに卓哉は前より動きが鈍いし,気構えが受けにまわっている.Hさんの上段突をあろうことか時々両手受けして下段があき,そこにカウンター的に中段突がしばしば入る.他方卓哉の上段カウンターは些かのろのろしていて,しばしば極まらない蹴りが余り出ないのでそう指摘すると卓哉曰く,「この頃蹴りも受けられて突き指っぽくなって痛いからさ...」と言う.

先に書いたように全ての原因は,まさに御師匠様の一言「半身になりすぎ」ということなのだった.
この頃Hさんが上段が良く出るようになったのだが,一応拳法は先輩の卓哉としては,級拳士から一発でも喰らってしまうのは格好悪いと思っている.また,余り突っ込んで軍鶏の喧嘩のようになるな!とも言われるので以前のように猪突猛進ではなくなりつつある.それで,喰らいたくないのと前に突撃できないのとが重なってどうも受け身の気構えに固まってしまったようである.つまり,格好良くかわしたり弾いたりして,相手の攻撃が当たらずに反撃したいというのだろう.
でも,その思いが裏目に出ている.相手の攻撃を喰らいたくないばかりに,御師匠様のご指摘通り,半身になりすぎてさらに逆手を前に出しすぎている.
そうすると順手で守るばかりで腰が回らないから,相手の攻撃を捌き落としにくいのだ.Hさんのパワーは強烈なので尚更である.すると,ときどき余っている逆手で中途半端に支えて二本手で受けたりするというのを無意識でやっている.両手とも上段に行けば中段はお留守になり,当然隙ができるので中段に鈎突を喰らう.体を開いているとこれが良く入る.
腰が開いているから運歩もしずらくなり,動きも鈍くなる.自分のカウンターは腰が開きすぎている分遅くなる
さらに,逆蹴も腰が入らないから,軌道がずれ,若干棒蹴りっぽくなると共に,打撃点も正中線から外側にずれているようだ.当然,打落し受けなどされれば突き指っぽくなる軌道になるのである.

これら全ての悪手の原因が<体が数度半身になりすぎている>という構の乱れから来ているのである.そしてその構のねじれは,絶対に喰らわずに反撃したい,といういささか虫のいい邪念から出ていたのであるから,けだし武道とは心と心の闘いであるということだろう.御師匠様はいつも構が大切だ,と殊更強調なさるが,そのずれがこれだけの悪影響を及ぼすという明確な事例を目の当たりにして,私も大いに勉強になった.やはり,構,基本なのであるなぁ...

それにしても,多数組同時にやってる数分の空乱をちらと御覧になっただけで,これらのこと見抜いてしまう御師匠様は,やはり只者ではないと改めて思いました.

randori

snkudoh について

道楽洋学者で某私立大学教授.💡研究分野は,脳・AIと,心に関する人工物全般. 🥋武道は少林寺拳法正拳士四段,無双直伝英信流居合兵法 全日本居合道連盟居合道四段で共に現役. 🎼芸術全般に興味,音楽ー特にオペラ,美術ー高校時代は画家志望.文学,刀剣. ⛩思想は禅,神道,武士道. *ヘッダー画像はサンスーシー宮殿の絵画館.
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