刀の伝説


名刀には伝説がつきものである.例えば,刃こぼれした刀の側で眠ったら蛍が刀に群がり集まる夢を見た.目が覚めて刀をみるともとどおりに直っていた.其れで,その刀は蛍丸と呼ばれることになった等.このような話は,必ず最初に誰か一人が話を作って,其れが語り伝えられるうちに伝説となったものだろう.ならば,現代において話を作っても,何代か後には古来からの伝承と区別が無くなるのではないかしら(恵方巻きみたいなもんですね).それで,気に入って手に入れた刀に自分で伝承を創作してみた.

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「秋津丸縁起」

昔,武蔵国大和守安定なる鍛師(かなち)の門下に天津(あまつ)といふ者あり.年若く未だ修行の身なれど良く剣を打ち,天の一文字銘切りて知る者ぞ知るなり.天津に秘めたる技あり,澄みわたり冴えたる神水に剣を淬ぎ(にらぎ),刃先に匂満ちて白く霞みたり.その神水の沸き出づる処,堅く秘して語らず.

天津の打ちたる刀に,姿すぐにして重ね厚く,重く豪壮なる一振りあり.をぢなき侍に乞われこれを打つと言ふ.重けれども手にとらば刀身先んじて空を払い軽やかに走るなり.対峙したる者,その剣鋒先の走りに秋津群れ飛ぶを見たり,その太刀筋の神速になす術なしといふ.もって秋津丸といふ.斯の侍,秋津丸を得て思ひたち,その後敗れることなしとかや.秋津丸主を良く守りしも,主に末のなき故に後の所在知れず.

としごろ経て,武蔵国の某,はじめて得たる刀を一振りせしに眼前に秋津の群れとぶを見たり.怪しみて銘を改めば,既に削れてあとかたなけれど,この刀,名に聞こゆ秋津丸に相違なしと覚へ,おおいに慈しみて伝へたり.

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