日本刀の拵えには小柄と笄が付いているものがある.鞘に溝が設けてあって,そこに納められ,鍔にはこれらを通す穴が穿たれている.小柄は,ペーパーナイフのようなもので,懐紙を切ったり,ちょっとした小刀として使ったようだ.良く時代劇で,小柄を手裏剣代わりに投げている描写があるが,小柄は柄の方が随分と重いので空中で回転してしまい,刃の方がささらないので手裏剣代わりに使うのは難しいと聞く.笄は,櫛のようなもので髪を掻き揚げて髷を結う道具だったようだ.他に髷を結ったまま頭を掻いたり,髪型を整えたりするのにも重宝したらしい.
小柄は本差の拵えに付属していることも多いが,特に小柄と笄がそろって付属するのは大体脇差の拵えではないだろうか.古い拵えでは,小柄は残っていても笄は抜け落ちていることがしばしばだ.是は矢張り,江戸時代であっても笄は実用と言うより装飾品だったためだろうか.

私の脇差も小柄は付属していたが,笄は既に落ちていた.鞘には笄櫃(笄を嵌めておく溝)だけ残っていて,どうにも欠落感があって気になっていたのだが,笄だって骨董で探すと数万円するので,まぁ良いかと放置していた.それが此の程,居合刀を新調しようと思って濃州堂さんのカタログを見ていたらさりげなく笄が載っていたのだ.現代のもので全く構わないので早速入手してみた.笄の柄の幅は12 mmと聞いていたので多分大丈夫だろうと思っていたが,笄櫃に嵌めてみると案の定しっくりと収まった.絵柄は月と鳥.細かな魚子地に明るい月が半面雲に隠れたイメージで冴え冴えと輝いていて,鳥がそこにかかっている.伝統的なイメージであり,明るい夜のイメージが良い.
やはり,小柄・笄と揃えて拵えにいれると,しっくりとくる.あるべき処にあるべきものがあるという安定感がある.これで,脇差しの拵えも完成した.

なんというか,現代部品で拵えを補うということが,日本刀を「触るべからずの美術骨董品」として扱うと言うよりも,日常の愛用品として処遇するという感覚になって,なんだか嬉しい.本差の方はもとより居合の修行で愛用しているから,すなわち実用品であり,武道修行の相棒である.また,私は本差にも脇差にも,自分の精神を映す御守刀として神性を観じている.これは霊器としての属性で,美術品というと違和感がある.

つまり私は日本刀に総じて実用的な道具としての属性を観じているのだが,他方で法律上,日本刀はあくまで「美術品」としてしか所有を許されない.露骨に武器として所持を認めろとまでは言わないが,骨董美術品としてより,「精神的な御守刀」としての所有を認めるほうがよいのに,とは思う.そこに敗戦後の抑圧の一つが尾を引いているような気がするのだ.

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現代物の笄も江戸時代の拵えにしっくり入る.

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笄櫃が空いているのはやはり寂しい.

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小柄は越後守照包銘の入った良いのが付属していた.茄子の彫刻も良い出来だ.

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